精米歩合90パーセントという
「非常識」な日本酒が、
10数年の年月を経て、
極上のお酒へと進化しています。
工藤夕貴が手がける
この「賜(ギフト)」を求めて、
酒造を訪れたのが
事務所の後輩大賀埜々。
全国きき酒選手権で2位になった
彼女の舌と、
「賜」の味わいが遭遇します。

今回は後編。瓶詰めを終えて、
杜氏の小田島さんを加えて談義です。





工藤夕貴(以下Y)
私の好きなお酒と杜氏の小田島さんの目指す味が近くて、昔ながらの日本酒の味。フルーティで白ワインっぽいというのではない。そういう方向性が同じ。一番最初に削らないって言ったとき、「それなりのお酒になればいいんじゃない?」っておっしゃってて(笑)。

杜氏小田島健次さん(以下T)
そうそう、無理だよってね。

Y 「削ってないんだからしょうがないでしょう」って(笑)。

大賀埜々(以下A)
今までこういう作りをしたことはあったんですか?

T なかった。それでやってるうちに、こういうのができるんだってね。

A 初挑戦だったんですね!

T やったことはなかったね。ところでもう利いてもらったの?

Y まだなんですよ。ドキドキしてるんです。だって全国きき酒選手権で2位だったんですよ!

T すごいね。

Y 杜氏さんは18歳から奉公に来ていて、お酒造りに全人生捧げているんです。そんな杜氏さんにお酒を認められたことはすごく誇りに思っています。それが一番嬉しいです。杜氏さんが忙しいときに、一緒に蔵にいてほしかったんですけど、どうしても他のお酒つくりで一緒にいられなくて、でも「大丈夫。もう蔵人だから」って言われたのが本当に嬉しくて。私がこんなに蔵に来るようになったのも杜氏さんが大好きで会いたいからかもしれない(笑)。





A 小田島さんにとってギフトはどんなお酒ですか?

T 他にないお酒。他にない味。普通はきれいで甘くて香りが高い。それが違う。なんだろう? 原料を大事にしている。普通は削っていくのに、逆を行っている。なのに、華やかさに負けない、別の華やかさがある。なんでしょう。飲んでみればわかるよね。これ絶対いいでしょうってなるから。うまくは説明できない。

Y 最初に作っていたときは自信がなかった。人に利いてもらうときに。でも杜氏さんと作るようになって、今年くらいから自信を持っていいと思えるようになってきました。定説では無色のお酒ほど綺麗なお酒と言われていますが、私たちのお酒はお米由来の色が感じられます。本来であればそれは雑味が多いとされていますが、私たちのお酒はそれが旨味となって反映されています。百薬の長と呼ばれていたころは、あまり削らずに作っていたはずなんです。でも華やかさもほしいとかいうわがままも言ったりして。
こんな香りや、これくらいの甘さは出したい、みたいなわがままは言ってしまうんですよ(笑)。

T 最初はこういう味になると思ってなかったから。今は高級感があるよね。去年あたりから。

Y 「すごくいいかも」ってなりましたよね。

T いいかもってね。今までも悪くないし、美味しいんだけど、

Y 高みにちょっと上ったというか。

T どうしても酸が出てくるはずなんだけど、普通のお米と変わらない。これはすごいなと思う。理屈から言うと、こういう味になるわけがない。どこに出しても全然恥ずかしくない。






そして、ついに今年のギフトを味わう瞬間です。

A ふ〜ぁうんまぁ!

Y すごいでしょ?

A すっごい体にいいものが、ぶわっと体に入ってくる。お酒の概念というか、日本酒とは違うものができあがっている感じです。

Y 嬉しい。利き酒師にOKもらってしまった。

A 透き通った飲み口なのに、喉を通ると体がふわっと温かくなって、とても綺麗な水分が体を潤していくような…ずっと飲んでいたいと思ってしまう。

Y この何日間かで、いい感じに成長してる! まろやかになってる。

A 包まれるような柔らかさっていうのがすごくわかる。アルコールが優しく感じるのに口の中では複雑な旨みがぶわぁっと広がって…味わいの奥行きが深い。

Y 出来たお酒に一滴も加水せず、成分無調整で原酒そのままの味だから。

A ひとくちめよりも、どんどん飲みやすくなる。

Y そう、少しナッツの香りがしたりとか。独特なんですよね。

A これマグロの大トロでもいけますよ。マグロの大トロって日本酒とあんまりいけないイメージがあるんですけど。

Y わかるわかる!

A あんなしっかりした油でも、このお酒なら受け止めてくれる。ふわっと美味しくしてくれる。





Y 食べ物を邪魔しない香りを目指したんです。だからどんな料理にも合う。白身魚でもなんでも。うちのカフェナチュレのカレーにも使っています。

A カレーに合いますね!

Y うちのカレーに合うんです。シーフード炒めたりするときに、料理酒として使っていて。例えばパスタでもクリームソースでも。

A 素晴らしい! 高級なものと合わせたい。あわびの肝とか。塩辛をつまみにというよりも、高級なものを食べながらという感じがします。和牛とか。和牛の油もこの子は合いますね。もうお酒ももっと高くして売っていいはずです!

Y ちょっと相談しようかなぁ(笑)





最後に、富士錦酒造の清信一社長にも
ギフトに関するお話を伺いました。

清信一社長(以下S)
お酒造りは地道で、お客さんの喜ぶ顔は見れないけれど、充実感があります。そのときそのときで60点だったり79点だったり、100点ってあまりないんです。微生物を大事に育てながら作ってもらうようなものなので、自分で作り上げるというより、水や物の手助けを借りながら仕上げていくという、大きなものに委ねていくようなやり方ですね。

A 毎回違うものができて、ときどきすごい変なものができたりすることもあるんですか?

S あります(笑)。その最たるものが工藤さんのお酒で、あまり精米をしないで造るっていうのはやったことがなかったんです。無農薬という特性を活かしたいという相談が最初にあって、どうなるかわからないなあと思って。胚芽にオイルがあって、それをきれいに除去するのがお酒を造る最低条件なんですが、工藤さんの場合は本当にそこだけ取るという。そして吟醸の作り方でやったんですけど、お米が元気よすぎて、走る走る(笑)。あまりにもろみの発酵が進むので、これでよかったのかな? っていうのが最初の年の印象ですね。
でも調べてみると、これでよかったみたいで、工藤さんのお米だから走ったっていうわけじゃなかったんです。出来上がったお酒は少し甘く、味もあって。こうゆうお酒もできるんだっていう気づきというか、勉強になりました。

A 初年度の味はどうだったんですか?

S それが、美味しかったんですよ(笑)。それはそれで甘みがあって美味しかった。うちでは淡麗の辛口が中心だったんですけど、濃厚で甘みがあって、香りがあって美味しいっていうお酒はあまり経験がなかったんです。なので、これはちょっと面白いなと思って、こうゆう造り方ありだなと思って。本当に工藤さんから教えていただいたっていう感じなんです。

Y 最初のころからしょっちゅう蔵に顔出ししていて、お邪魔じゃなかったのかなってずっと思っていて(笑)。

S 最初は仕込みだけだったのに、だんだん工藤さんがハマってきてしまって。朝5時30分から仕事があるんですけど、それくらいに行くともう工藤さんが帽子かぶって立っているんです。「お願いします!」って。2014年ごろからは毎日毎日来るようになって。「この人本気だ」って伝わってきて。そうなると我々も気を抜けない。だから、造り方はわからないお米(お酒用のお米ではなく、食べる用のお米を使っている)だけども、勉強しながら一生懸命やってきました。

A 最近の出来はどうですか?

S 基本線は変わらないんですけど、より美味しくなってますよね。作り方を勉強してきて、こういうお米はこうだっていう。お水とお米の相性を良くする工夫をして、蒸し時間を変えて、種麹の作り方も変えて、糖化と発酵がバランスよくするようにしています。

A とても手間がかかる特別な造りですよね?

S そうですね。他ではあまりこういう作り方はしていないと思います。

A そう考えると個性がありますよね?

S 非常にありますね。

A ちなみに創業はいつごろなんでしょう?

S 今から340年くらい前です。第5代将軍の元禄時代、綱吉の時代です。元禄時代は1608年から1704年なんですけど、宝永の噴火、富士山の噴火が1707年なので、噴火前に創業してたようです。そういう時代からずっと富士山の水で造っていることが売りなんです。








こうして、プレミアムな日が
暮れていきました。
ギフトに満たされた大賀埜々の体には、
もう言葉は必要ありません。
細胞とギフトがトークを始めています。
と、不思議な表現に
なってきたところで、
今回はおしまいにします。
お酒作りは米作りから
1年かけて行うもの。
また、お酒造りの現場で逢いましょう。